東京地方裁判所 平成9年(行ウ)4号 判決 1998年8月27日
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
理由
【事実及び理由】
第一 請求
(主位的請求)
被告東京都は、原告に対し、金三三二九万九三〇〇円及びこれに対する平成一〇年三月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(予備的請求)
被告都税事務所長が原告に対し、平成七年九月二二日付けでした、原告の別紙物件目録記載の各土地に対する特別土地保有税の納税義務を免除しない旨の処分(ただし、平成八年三月二二日付け更正により減額された納税義務に係る部分を除く。)を取り消す。
第二 事案の概要
原告は、譲渡担保として別紙物件目録記載の各土地(以下「本件土地」という。)の所有権の移転を受け、被告都税事務所長に対し、右土地について地方税法(以下「法」という。)附則三一条の五に規定する特別土地保有税(以下「ミニ保有税」という。)の申告するとともに、本件土地は法附則三一条の五第二項、法六〇三条の二第一項二号に規定する納税義務が免除される土地(以下「免除対象土地」という。)に当たるとして、被告都税事務所長に対し、納税義務免除の認定を申請したところ、同都税事務所長が、右土地は免除対象土地に該当しないとして納税義務を免除しない旨の処分をした。本件は、原告が、主位的に、既に納付済みの右ミニ保有税「ただし、平成八年四月一七日付けで還付されたものを除く。)について、原告はそもそも譲渡担保権という担保権を取得しただけであり、土地の所有権を取得したものではないから、本来ミニ保有税を納付すべき義務がなかったものであり、被告東京都はこれを不当に利得しているとして、不当利得返還請求権に基づき、被告東京都に対し、その返還を求め、予備的に、被告都税事務所長がした右納税義務を免除しない旨の処分を不服として、その処分(ただし、平成八年三月二二日付け更正により減額された納税義務に係る部分を除く。)の取消しを求めている事案である。
一 関係法令の定め
1 法附則三一条の五第一項によれば、平成三年度以降の各年度の初日の属する年の一月一日において、同項所定の区域内に所在する土地で、昭和六三年四月一日から平成五年一二月三一日までの間に当該土地の所有者が取得したもののうち、地方自治法二五二条の一九第一項の市の区(東京都の特別区の存する区域にあっては、特別区)の区域に所在する一団の土地の面積が二〇〇平方メートル以上である土地など、同項各号に該当する土地に対しては、法五九五条の規定にかかわらず、当該土地の所在する市(東京都の特別区の存する地域にあっては、東京都。以下同じ。)において、当該取得がされた日から起算して二年を経過した日の属する年の翌年の四月一日からその翌年の三月三一日までを初年度とする一〇年度分に限り、特別土地保有税(ミニ保有税)を課するものとされている。この場合、法第三章第八節の規定中、土地に対して課する特別土地保有税に関する規定が準用される(法附則三一条の五第二項)。
2 ミニ保有税は、申告納付、すなわち、納税者がその納付すべき地方税の課税標準額及び税額を申告し、その申告した税金を納付する方式(法一条一項八号)による地方税である(法附則三一条の五第二項、法五九八条)
3 法によれば、市町村は、土地の所有者等が所有する土地が次に掲げる土地のいずれかに該当し、かつ、当該土地の利用が当該市町村に係る土地利用基本計画、都市計画その他の土地利用に関する計画に照らし、当該土地を含む周辺の地域における計画的な土地利用に適合するものであることについて市町村長(東京都の特別区の存する区域にあっては、法七三四条一項により東京都知事。さらに、法三条の二及び東京都都税条例四条の三第一項により特別土地保有税の賦課徴収に関する事項等は、都税事務所長に委任されている。)が認定した場合には、当該土地に係るミニ保有税の納税義務を免除するものとされている(法附則三一条の五第二項、法六〇三条の二第一項)。
(一) 事務所、店舗その他の建物又は構築物で、その構造、利用状況等が恒久的な利用に供される建物又は構築物に係る基準として政令で定める基準に適合するものの敷地の用に供する土地(次の(二)に該当するものを除く。同項一号)
(二) 工場施設、競技場施設その他の施設(建物、構築物その他の工作物及びこれらと一体的に利用されている土地により構成されているものに限る。以下「特定施設」という。)で、その整備状況、利用状況等が恒久的な利用に供される特定施設に係る基準として政令で定める基準に適合するものの用に供する土地(同項二号)
4 そして、右のうち、恒久的な利用に供される特定施設に係る基準は、地方税法施行令(以下「法施行令」という。)五四条の四七第二項により、次のとおり定められている。
(一) その整備状況が同一又は類似の用途に供される施設について通常必要とされる整備の水準と同程度の水準に達しているものであること(同項一号)。
(二) その利用が相当の期間にわたると認められること(同項二号)。
(三) その効用を維持するため通常必要とされる管理が行われると認められること(同項三号)。
5 当該土地が納税義務免除の対象となる土地であるか否かの判定は、ミニ保有税を申告納付すべき日の属する年の一月一日(以下「基準日」という。)の現況によるものとされている(法附則三一条の五第二項、法六〇三条の二第七項、五八六条四項)。
二 前提となる事実
(以下の事実のうち、証拠を掲記したもの以外は、当事者間に争いがない事実である。)
1 当事者
原告は、商業手形の割引業務及びその他の金融業等を目的とする株式会社である。
2 譲渡担保による土地の所有権の移転等
(一) 原告は、昭和六三年一月二八日、リキ興産株式会社(以下「リキ興産」という。)と取引約定書を締結し、同社に対し継続的に融資を行う旨を約定した。
原告は、右約定に基づき、リキ興産に対し、平成二年八月三〇日から平成四年三月三一日までの七回にわたり、合計三九億〇二二〇万円を貸し渡し、平成二年八月三〇日から平成三年六月二七日までの間に、本件土地(その合計面積は五四〇・五二平方メートルであり、これらは一団の土地を構成するものである。)に極度額五五億円の根抵当権を設定した。
(二) 原告は、平成四年四月二〇日、右(一)の貸付金債権を被担保債権として、リキ興産との間で、本件土地について譲渡担保権設定契約(以下「本件譲渡担保権設定契約」という。)を締結し、右契約に基づいて、本件土地の所有権の移転を受けるとともに、同日、本件土地につき譲渡担保を登記原因として所有権移転登記を経由した。本件譲渡担保権設定契約においては、平成六年四月一九日まで譲渡担保権の実行が猶予されており、本件土地の使用収益権もリキ興産が有するものとされていた。
3 本件土地の利用状況等
(一) 原告及びリキ興産は、平成六年一月一〇日、原告が本件土地を同日以降使用収益し、収益金をリキ興産が原告に対して負担する債務の弁済に充当することを合意した。原告は、右合意に基づき、平成六年一月一二日、中山不動産と駐車場の管理委託契約を締結し、本件土地を駐車場として整備した上、同年二月二一日以降、本件土地について第三者と駐車場の賃貸借契約を締結し、右賃貸による収益金をリキ興産が原告に対して負担する債務の弁済に充当した。
(二) 本件譲渡担保権設定契約の日から起算して二年を経過した日の属する年の翌年の一月一日である平成七年一月一日(本件土地にミニ保有税が課されるとした場合の基準日である。)当時、本件土地は、アスファルト舗装された月極めの駐車場(以下「本件駐車場」という。)として利用されていた。
(三) 原告は、同年三月二二日、本件土地を近鉄不動産株式会社(以下「近鉄不動産」という。)に一〇億一〇〇〇万円で売却し、近鉄不動産に対し、本件土地の所有権移転登記を経由した。
4 納税義務免除申請等
(一) 原告は、平成七年五月二二日、被告に対し、本件土地について、課税標準額を三九億三二二〇万円、納付すべき税額を五二九九万九三〇〇円とする平成七年度分のミニ保有税(以下「本件ミニ保有税」という。)の申告をするとともに、法附則三一条の五第二項、法六〇三条の二第一項に基づき、本件ミニ保有税につき納税義務免除の認定を申請した。
(二) 被告は、平成七年九月二二日付けで、本件土地については東京都都税条例附則一九条二項において準用する同条例一五三条の二第一項に規定する特別土地保有税の免除対象土地に該当しないものと認め、納税義務を免除しない旨の処分(以下「本件否認処分」という。)をし、その旨を原告に対し通知した。
(三) 原告は、平成七年一〇月三一日、税額五二九九万九三〇〇円及び延滞金一七一万七一〇〇円(合計五四七一万六四〇〇円)を被告に対し納付した。
5 更正の請求等
(一) 原告は、平成八年二月一三日、被告に対し、前記4(一)の申告において課税標準額を原告のリキ興産に対する当初の融資額としたが、これは本件譲渡担保権設定契約時(平成四年四月)の本件土地の時価よりも過大となっていたので適正な価格から算出した課税標準額に変更したい旨の理由により、本件ミニ保有税について、課税標準額を二四億五〇四一万一〇〇〇円、納付すべき税額を三二二五万四三〇〇円に減額することを求める更正の請求をした。
(二) 被告は、平成八年三月二二日付けで、原告に対し、右更正の請求のとおり課税標準額及び納付すべき税額を減額する旨の更正(以下「本件減額更正」という。)を行った。
(三) 被告は、本件減額更正に伴い、税額二〇七四万五〇〇〇円、延滞金六七万二一〇〇円(合計二一四一万七一〇〇円)の過納金が生じたため、平成八年四月一七日、右過納金を原告に対し還付した。
6 本件否認処分に対する審査請求等
(一) 原告は、右更正の請求に先立って、平成七年一〇月六日、本件否認処分を不服として東京都知事に審査請求をした。
(二) 東京都知事は、平成八年一〇月一五日、右審査請求について、そのうち、本件減額更正により減額された部分に係る請求を却下し、その余の部分に係る請求を棄却する旨の裁決をし、右裁決は、同月一八日、原告に送達された。
三 被告東京都に対する不当利得返還請求に関する争点
右の請求に関する争点は、被告東京都は本件ミニ保有税(ただし、前記二5(三)により還付されたものを除く。)相当額につき法律上の原因なく利得したものといえるか、具体的には、(一) 原告において譲渡担保として本件土地の所有権の移転を受けたことが法附則三一条の五第一項にいう土地の「取得」に該当するか否か、(二) 仮に譲渡担保として本件土地の所有権の移転を受けたことが法附則三一条の五第一項にいう土地の「取得」に該当しないとした場合に、本件申告は無効であるか否かであり、これらの点に関する当事者の主張は次のとおりである。
1 原告において譲渡担保として本件土地の所有権の移転を受けたことが、法附則三一条の五第一項にいう土地の「取得」に該当するか否かについて(争点(一))
(原告の主張)
(一) 特別土地保有税における土地の「取得」の意義について
(1) 特別土地保有税における「取得」の概念は、不動産取得税における「取得」の概念と同様に解釈されているが、法上、「取得」の意義について特別の規定は存在しないことから、社会通念上の概念に従い、「所有権の取得」を意味するものと解されている。
(2) 租税法規においては、社会経済的実質に着目して課税する実質主義がとられているところ、譲渡担保の設定に伴う所有権の取得は、所有権の移転という形式をとりながら、その実質においては、譲渡担保権者の債権を担保することが本質であるから、完全な所有権の取得とはいい難く、むしろ、その実質においては、抵当権等の法定担保権と同じく担保権の一種として理解されるべきものであり、その法的構成については、担保権的構成をとるのが現在の判例・通説である。
ところで、不動産取得税については、譲渡担保権者が譲渡担保財産を取得し、その譲渡担保財産により担保される債権の消滅により、譲渡担保財産の設定の日から二年(昭和三六年の制定当初は一年)以内に譲渡担保権者から譲渡担保財産の設定者にその譲渡担保財産を移転した場合において、譲渡担保財産の設定者による当該譲渡担保財産の取得に対しては、不動産取得税を課することができないとされている(法七三条の七第八号)。これは、昭和三六年当時、譲渡担保権の法的構成について、いわゆる所有権的構成をとるものが判例・学説の主流であったことから、譲渡担保による土地の取得も「不動産の取得」(法七三条の二)に当たることを前提としながらも、譲渡担保権の実質を考慮し、「形式的な所有権の移転等に対する不動産所得税の非課税」の一場合として、譲渡担保の非課税に関する規定が設けられたのである。なお、同号が二年以内の被担保債権の消滅の場合に限って非課税としたのは、譲渡担保が実際の取引の中で形成されてきた非典型担保であり、通常の売買等による不動産の取得と外形的には区別がつかないことから、譲渡担保である場合に一律に非課税とすると、これを悪用して課税を免れようとする者が出るおそれが強いことを考慮したためである。したがって、右二年以内という期間には特別な根拠があるわけではなく、二年であれば通常は担保の目的を達することから、この期間が設定されたものにすぎない。
特別土地保有税は、土地の投機的取引の抑制と宅地供給の促進を図ることを目的として、昭和四八年に創設された政策的な税制である。右立法目的を達成するために「土地の取得」に対して特別土地保有税を課することとしたが、土地の取得をしようとする者に融資を行うことによって「土地の取得」を間接的に援助することになる抵当権者等の担保権者については課税の対象としていない。特別土地保有税は、そもそも担保権者にまで課税することは予定していないのである。法附則三一条の五第四項が準用する法五八七条は、土地の所有者が所有する土地で、その取得が法七三条の七各号の取得に該当するもののうち政令で定めるものに対しては、土地の取得等に対して課する特別土地保有税を課すことができないと規定しているが、これは、不動産取得税と同じく、形式的な所有権の移転による土地の取得等については、実質的には所有権の移転が行われなかったのと同様の取扱いをして特別土地保有税を課税しないこととしたものである。
以上のような、不動産取得税の譲渡担保に関する規定が設けられた沿革(なお、現在は担保権的構成をとるものが主流である。)や特別土地保有税の立法趣旨を踏まえれば、土地の所有権の移転が譲渡担保によるものであることが外形上明確である場合には、当該譲渡担保権者による当該土地の取得は法附則三一条の五第一項の土地の「取得」には該当せず、特別土地保有税の課税の対象にはならないものと解すべきである。
(3) 本件の場合は、前記二2記載のとおり、抵当権ないし根抵当権と併用して、「譲渡担保」を登記原因とする所有権移転登記がなされているから、売買を原因として所有権移転登記をしたような通常の事例とは異なり、担保であることが外形上も明確である。
したがって、このような場合は、譲渡担保を設定しただけで土地の「取得」があったと解釈すべきではない。
(4) 被告東京都は、譲渡担保権の法的構成について所有権的構成をとる立場から、土地の「取得」とは所有権移転の形式による土地の取得のすべての場合を含むものであり、譲渡担保についても、それが所有権移転の形式による以上、土地の「取得」に該当する旨主張するが、このような解釈は古い時代の解釈をそのまま維持するものであって失当である。地価税については、譲渡担保権を担保の一種と解する立場から、譲渡担保権を設定しただけでは「土地等の移転」があったとはいえず、課税の対象とはならないと解されている。本来であれば、地方税についても、譲渡担保権を担保の一種と理解する立場から、譲渡担保権に関する古い規定を整備すべきであるのに、これを怠り、漫然と古い解釈を維持するのは、怠慢といわざるを得ない。特別土地保有税は地方税であり、地価税は国税であるから、譲渡担保権の理解が異なってもかまわないというのは論理的でない。
(二) 原告が譲渡担保として本件土地の所有権の移転を受けたことは法附則三一条の五第一項にいう土地の「取得」とは評価できないこと
(1) 自治省税務局固定資産税課は、特別土地保有税に係る土地の「取得の時期」について、「所有権の取得に関する登記の有無にかかわらず、契約内容その他から総合的に判断して、現実に所有権を取得したときである。」と解しており、「実質主義」の立場を採っている。
(2) 次のような事実に照らせば、原告が本件土地につき譲渡担保を原因として所有権移転登記を経由した平成四年四月二〇日の時点では、原告は本件土地につき使用収益権を有しない担保権者にすぎず、現実に所有権を取得したとはいえないことは明らかである。
ア 原告は、平成四年二月ころ、リキ興産から税金分として三〇〇〇万円を融資してほしいとの申込みがあったことから、同社の資金繰りが悪化していることを知り、債権の保全強化のため本件土地につき譲渡担保権を設定したものであり、登記簿上も「譲渡担保」を登記原因として所有権移転登記がされていること。
イ 本件譲渡担保権設定契約によれば、平成六年四月一九日まで譲渡担保権の実行を猶予することが明示されており、本件土地の使用収益権もリキ興産が有していたものであり、原告が譲渡担保権者として本件土地の使用収益権を取得したのは、平成六年一月一〇日であること。
ウ 本件土地について、同年六月一〇日に駐車場とするための整備工事の請負契約が締結されたが、その注文者はリキ興産であり、また、同日付けで作成されたリキ興産の原告あての依頼書でも、真の所有者はリキ興産であることが確認されていること。
エ 原告が本件土地を近鉄不動産に売却するに際しても、原告とリキ興産との間で、近鉄不動産との売買契約に先立つ平成七年三月二〇日、右売買契約が本件譲渡担保権設定契約に基づく処分清算であること、売主としての瑕疵担保責任はリキ興産が負うことが確認されていること。
オ 原告は、右の売却のための活動を行っておらず、これらはすべてリキ興産が行ったものであること。
(3) そもそも使用収益権のない譲渡担保権者にミニ保有税を課すことは、抵当権者にミニ保有税が課されないことと比較して著しく均衡を失し、租税法の実質主義にも反するものであって、譲渡担保権を設定したにすぎない場合に、土地の「取得」に該当しないと解すべきは当然である。
(三) 以上のとおり、原告において本件土地の所有権の移転を受けたのは譲渡担保のためであることが外形上明確であり、しかも、譲渡担保権者である原告が本件土地につき使用収益権を取得したのは平成六年一月一〇日であり、平成四年四月二〇日の時点では本件土地につき使用収益権も有していなかったのであるから、原告が譲渡担保として本件土地の所有権の移転を受けたことは、法附則三一条の五第一項にいう土地の「取得」には該当しないと解すべきであり、したがって、原告には、本件ミニ保有税の納税義務はもとより、その申告義務さえないというべきである。
(被告東京都の主張)
(一) いわゆるミニ保有税については、法第三章第八節の規定中、土地に対して課する特別土地保有税に関する規定が準用される(法附則三一条の五第二項)。そして、法附則三一条の五第一項にいう土地の「取得」とは、一般の特別土地保有税について規定する法五八五条一項にいう土地の「取得」と同義であり、その取得の目的、理由の如何を問わず、所有権移転の形式によって土地を取得するすべての場合を含むものであり、また、取得の過程に関しても、土地の取得者が実質的に完全に利用することができるまで土地の取得がないと解すべき理由はなく、契約内容その他から判断して実質的に所有権の移転があったと認められることをもって足りるのであり、このことは、その土地の取得が担保の目的である場合も同様である。
(二) 法六〇三条二項は、譲渡担保権者が譲渡担保財産を取得し、その譲渡担保財産により担保される債権の消滅により、譲渡担保財産の設定から、二年以内に譲渡担保権者から譲渡担保財産の設定者にその譲渡担保財産を移転する場合においては(法七三条の二七の三第一項)、譲渡担保権者の右の取得に対しては、土地の取得に対して課する特別土地保有税の納税義務を免除すると規定している。これは、譲渡担保権者が担保のために土地を取得した場合に、二年以内に被担保債権が消滅してその所有権が譲渡担保権設定者に戻ったときには、担保権者の土地の取得は形式的なものであったとして、特別土地保有税を免除すると規定したものであるから、ある者が所有権移転の形式をとって土地を取得した以上、たとえその目的が担保のためであったとしても、その土地の取得は、法五八五条一項の土地の取得に当たるものであり、ただ、譲渡担保財産の設定の日から二年以内に債権の消滅により譲渡担保財産の受戻しがされた場合には、特別土地保有税の納税義務が免除されるにすぎないと解され、この理はミニ保有税についても同様であると解される。
(三) これを本件についてみれば、原告は本件土地を平成四年四月二〇日に譲渡担保として取得し、平成七年三月二二日に売買により近鉄不動産に譲渡しているのであるから、原告は、平成四年四月二〇日に本件土地を取得したものである。
原告は、譲渡担保の担保的構成とか地価税の譲渡担保の取扱いなどの理由に、譲渡担保として土地の所有権の移転を受けることは法附則三一条の五第一項にいう土地の「取得」には該当しない旨主張するが、地方税においては、法が前記のように規定しているのであるから、原告の右主張は法に反するものであり、いずれも失当である。
2 仮に原告が譲渡担保として本件土地の所有権の移転を受けたことが法附則三一条の五第一項にいう土地の「取得」に該当しないとした場合に、本件申告は無効であるか否かについて(争点(二))
(原告の主張)
(一) 納税申告制度のもとにおいては、納税義務者の申告によって具体的な納税義務が確定するものであり、申告に過誤がある場合には、原則として租税法の定める手続(修正申告、更正の請求)によってのみ是正することができるに止まるが、申告の過誤が重大であり、かつ客観的に明白であって、右手続以外にその是正を許さないならば、納税義務者の利益を著しく害すると認められる特段の事情のある場合には、右手続を経なくても申告の効力がないものとしてその過誤を主張し、それによって生じた財産権の変動(過誤納金)につき、不当利得の返還請求を主張しうるものと解すべきである。また、当該申告における内容上の過誤が課税要件の根幹についてのそれであって、徴税行政の安定とその円滑な運営の要請をしん酌してもなお、不服申立期間の徒過による不可争的効果の発生を理由として申告者に右申告による不利益を甘受させることが、著しく不当と認められるような例外的な事情がある場合には、明白性の要件を欠いていても、当該申告は無効となると解すべきである。
(二) ミニ保有税は、申告により納税義務が確定するものであるが、原告は、本件ミニ保有税の納税義務がないにもかかわらず、「取得」の解釈を誤って本件申告をしたものであり、申告の過誤が課税要件の根幹にかかわる重大なものであり、徴税行政の安定とその円滑な運営の要請をしん酌してもなお、更正の請求の期間の徒過による不可争的効果の発生を理由として原告の納税義務を確定させることが著しく不当と認められるような例外的な事情があるから、右申告は無効というべきである。
したがって、被告東京都は本件ミニ保有税(前記二5(三)により還付されたものを除く。)相当額について法律上の原因に基づかずに利得したものである。
(被告東京都の主張)
(一) 前記一2記載のとおり、ミニ保有税は、申告納付、すなわち、納税者がその納付すべき地方税の課税標準額及び税額を申告し、その申告した税金を納付する方式(法一条一項八号)による地方税である(法附則三一条の五第二項、法五九八条)が、一般的に、申告納付による地方税については、納付すべき税額は、納税者の申告によって確定することを原則としている。
そして、法は、二〇条の九の三第一項において、申告納付に係る地方税の申告書を提出した者は、当該申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が地方税に関する法令の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことにより、当該申告書の提出により納付すべき税額(当該税額に関し更正があった場合には、当該更正後の税額)が過大であるときなど同項各号の一に該当する場合には、当該申告書に係る地方税の法定納期限後一年以内に限り、自治省令の定めるところにより、地方団体の長に対し、その申告に係る課税標準等又は税額等(当該課税標準等又は税額等に関し更正があった場合には、当該更正後の課税標準等又は税額等)につき更正をすべき旨の請求をすることができる旨定め、さらに、同条二項において、右の更正請求の期間を経過した場合であっても、同項各号所定のいわゆる後発的理由に基づく更正の請求を、その理由の発生した日の翌日から起算して二か月以内にすることができる旨定めている。
(二) 右のとおり、法が申告納付による地方税について、更正の請求の制度を設け、かつ、更正の請求ができる期間を限定しているのは、納税者の権利を保護するとともに、租税債務を早期に確定させて租税法律関係を安定させ、税務行政の円滑な運営を図ることを意図したものと解される。そして、法が更正の請求の制度を特に定めた趣旨にかんがみると、申告書の記載内容に過誤があって納付すべき税額が過大となっているなど申告内容が納税者に不利になっている場合には、本来、その過誤の是正は、更正の請求の手続によって行うべきものであるから、例外的に当該申告を無効と解すべき特段の事情のある場合を除き、更正の請求の手続によってその救済を求めなければならないものと解するのが相当である。
したがって、ミニ保有税の申告をした者が、更正の請求の手続によることなく、当該申告に係る納税義務が当初から発生していないことを主張することは、当該申告自体を無効と解すべき特段の事情のある場合を除き、許されないものというべきところ、原告の主張するような事情は、例外的に申告を無効にする特段の事情には当たらないものである。
四 本件否認処分の取消請求に関する争点
右の請求に関する争点は、本件土地が免除認定の基準日である平成七年一月一日現在において、法附則三一条の五第二項、法六〇三条の二第一項二号に規定する恒久的な利用に供される土地と認められるか否か、具体的には、右の恒久的な利用に供される特定施設に係る基準の一つとして、法施行令五四条の四七第二項二号が定める「その利用が相当の期間にわたると認められること」という基準に適合するものであったか否かであり、この点に関する当事者の主張は次のとおりである。
(原告の主張)
1 前記一5記載のとおり、ある土地が免除対象土地であるか否かの判定は、基準日(本件では平成七年一月一日)の現況によるものとされている(法附則三一条の五第二項、法六〇三条の二第七項、五八六条四項)。これは、基準日を設定し、この基準日の現況によって納税義務を免除するかどうかを決定しようとする趣旨によるものであるから、基準日における事実以外の事実はしん酌できないが、基準日の前後の事実であっても、基準日における外形的事実を推認させる事実(補助的事実)であれば、これをしん酌することができるし、また、しん酌することを必要とする。とりわけ、「その利用が相当の期間にわたると認められること」(法施行令五四条の四七第二項二号)の基準を満たすか否かは、基準日現在の事実(現況)のみでこれを判断することが困難であるから、この場合には、所有者の利用意思、当該建物等の具体的な利用状況等、基準日の前後における事実を総合的に考慮して認定すべきである。
2 本件においては、基準日(平成七年一月一日)において、本件土地は本件駐車場として現実に利用されていたものであり、以下に述べる事情からすれば、右時点において、原告は本件土地を相当期間にわたって本件駐車場として利用する意思を有していたというべきであるから、「その利用が相当の期間にわたると認められること」の基準を満たしているというべきである。
(一) 原告は、平成六年一月一二日、中山不動産との間で本件駐車場の管理委託契約を締結し、平成七年二月二八日まで一年以上にわたって本件土地を駐車場として第三者に賃貸していた。
(二) 平成六年一月一三日から同年二月二一日まで、本件土地を本件駐車場とするための工事が行われたが、その際、原告は、工事代金として五一七万二六六〇円を支出した。また、同年九月二日には、本件駐車場のブロック塀の補修を行った。
(三) 原告は、平成六年一〇月二七日、サンワ製版株式会社との間で、期間を平成六年一一月一日から平成七年一〇月三一日まで(更新可)として、駐車場の賃貸借契約を締結した。
(四) 中山不動産は、平成七年一月九日付けで本件駐車場の賃料相当額から管理手数料を控除した額を原告の口座に振り込んでいるところ、その旨の通知書には、「今年もよろしくお願い致します。」と記載されている。このことは、原告が当時、本件土地を本件駐車場として利用する意思を有しており、中山不動産がこれを前提として、右通知書を原告に対し送付したことを示すものである。
(五) 原告は、平成七年三月二二日に本件土地を近鉄不動産に売却しているが、これは、たまたま同年一月一二日に同社から本件土地の購入の申込みがあり、この話が思いがけず順調に進んだからにすぎない。
3 被告都税事務所長は、たまたま平成七年三月二二日に本件土地の売買契約が成立したことから、基準日に遡って、原告に本件土地を本件駐車場として相当期間にわたって利用する意思はなかったと認定しているが、これは、原告の本件土地の利用に関する一連の意思を平成六年と平成七年とに分断して理解するものであり、正当ではない。
(被告都税事務所長の主張)
1 前記一5記載のとおり、ある土地が免除対象土地であるか否かの判定は、基準日の現況によるものとされているが、基準日の前後における事実であっても、それが基準日現在の状況を推認させる補助的な事実であれば、その限度でこれをしん酌することができるし、また、しん酌することを必要とする。とりわけ、「その利用が相当の期間にわたると認められること」(法施行令五四条の四七第二項二号)という基準に適合するか否かは、基準日現在の状況のみでこれを判断することが困難であるから、この場合には、所有者の利用意思、当該建物等の具体的な利用状況等基準日の前後における事実を総合的に考慮して認定しなければならない。
2 本件土地は、基準日である平成七年一月一日時点においては、アスファルト舗装された月極めの駐車場であると認められたが、同月一二日に近鉄不動産から本件土地購入の申込みがあり、その後、同年三月二二日、原告と近鉄不動産との間で本件土地の売買契約が成立し、同日付けで近鉄不動産に所有権の移転登記がなされているのである。
そうすると、平成七年一月一日現在、本件土地が本件駐車場として利用されていたことは事実であるが、その利用が相当の期間にわたるものと認めることはできないから、本件駐車場は、法施行令五四条の四七第二項二号が定める基準に該当しないといわざるを得ない。
第三 当裁判所の判断
一 被告東京都に対する不当利得返還請求について
1 原告において譲渡担保として本件土地の所有権の移転を受けたことが、法附則三一条の五第一項にいう土地の「取得」に該当するか否かについて(争点(一))
(一) 特別土地保有税は、土地の投機的取引を抑制して地価の安定を図るとともに、保有土地の供給の促進に資することを目的として土地の取得と保有について課税する市町村税であるところ、昭和五七年度の税制改正で、大都市圏における土地投機を抑制し、又は大都市圏における土地の有効利用ないし供給を促進するための措置として、東京都の特別区の存する区域を含む三大都市圏の特定市の市街化区域内の土地で、昭和五七年四月一日から昭和六三年三月三一日までの間に取得したものについては、法五八五条以下に規定する特別土地保有税の課税の対象とならない比較的小規模な土地でも、一団の土地で一定面積以上のものに対しては、取得の日から二年を経過した日の属する年の翌年から一〇年度分に限り、ミニ保有税を課すこととされた。この規定は、その後数次の改正を経て前記第二の一に記載した現行の規定になっている。
そして、ミニ保有税に関しては、法第三章第八節の規定中、土地に対して課する特別土地保有税に関する規定が準用されるものであり(法附則三一条の五第二項)、右に述べたミニ保有税の趣旨にかんがみれば、法附則三一条の五第一項に規定するミニ保有税における土地の「取得」とは、法第三章第八節に規定する特別土地保有税における「取得」と同義であると解される。
(二) ところで、特別土地保有税のうち土地の取得に対して課するものは、流通税的性格を有し、また、土地の保有に対して課するものは財産税的性格を有するが、いずれも、土地の取得者がその土地を使用、収益、処分をすることにより得られるであろう利益に着目して課せられるものではなく、土地の移転自体ないし土地の移転後当該土地を引き続き保有すること自体に着目して課せられるものである。前記のような特別土地保有税創設の立法目的及び右に述べた同税の性格に照らせば、法五八五条一項にいう「土地の取得」、法附則三一条の五第一項にいう土地の「取得」とは、その取得の目的・理由いかんを問わず、所有権移転の形式によって土地を取得するすべての場合を含むものであり、また、土地を「取得」したといえるためには、土地の取得者が当該土地を完全に利用できる状態になることまでを要するとする理由はなく、契約内容その他の事情を総合して現実に所有権の移転があったと認められることをもって足りるものと解するのが相当である。
法によれば、譲渡担保権者が譲渡担保財産を取得し、その譲渡担保財産により担保される債権の消滅により、譲渡担保財産の設定の日から二年以内に譲渡担保権者から譲渡担保財産の設定者にその譲渡担保財産を移転した場合において、譲渡担保財産の設定者による当該譲渡担保財産の取得に対しては、市町村は、土地に対して課する特別土地保有税を課することができないとされ(法五八七条一項、法七三条の七第八号)、譲渡担保権者による当該譲渡担保財産である土地の取得に対して課する特別土地保有税の納税義務については、これを免除するものとされている(法六〇三条一項、七三条の二七の三第一項)が、右各規定は、譲渡担保財産の設定又は消滅による土地の所有権の移転については、これが特別土地保有税の課税の対象となる土地の「取得」に該当することを前提とした上で、譲渡担保財産の設定の日から二年以内に債権の消滅により譲渡担保財産の受戻しがされた場合に限り、譲渡担保財産の設定者に対し特別土地保有税を課さないこととし、譲渡担保権者の特別土地保有税の納税義務を免除することとしているものと解される。
右に説示したとおり、譲渡担保として土地の所有権の移転を受けることは、法附則三一条の五第一項にいう土地の「取得」に該当するものであり、当該土地が法二五二条の一九第一項の市の区域内で一団の土地の面積が二〇〇メートル以上である土地である場合には、ミニ保有税の課税の対象となるものである。
これに対し、原告は、土地の所有権の移転が譲渡担保によるものであることが外形上明確である場合には、当該土地に対しては、ミニ保有税を課税すべきではない旨主張するが、右の解釈は、立法論としてはともかく、現行法の解釈としては明文の規定に反する独自の解釈であって、採用することができない。
(三) 本件についてみると、前記第二の二2(二)記載のとおり、原告は、平成四年四月二〇日、本件譲渡担保権設定契約に基づき本件土地の所有権の移転を受け、その旨の登記を経由しているのであるから、この時点において、法附則三一条の五第一項にいう土地の「取得」があったものということができる。
したがって、原告は、平成四年四月二〇日に本件土地を取得したものとして、本件ミニ保有税の納税義務を負うものである。
2 以上によれば、原告の被告東京都に対する不当利得返還請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないというべきである。
二 本件否認処分の取消請求について
1 本件ミニ保有税の免除認定の基準日である平成七年一月一日現在において、本件駐車場が「その利用が相当の期間にわたると認められること」(法施行令五四条の四七第二項二号)という基準に適合するものであったか否かについて
(一) 特別土地保有税は、土地の取得及び保有に伴う費用を増大させることにより、土地の投機的取引を抑制し、地価の安定を図るとともに、土地の供給を促進することを目的として、創設されたものであるが、法は、既に社会通念上相当程度の利用がされ、最終的な需要に供されていると認められるような土地についてまで、特別土地保有税を課するのは、同税の性格からみて適当でないという考慮から、六〇三条の二において右のような土地について納税義務を免除する制度を設けている。そして、右の制度の趣旨からすれば、未利用の土地はもとより、将来の売買等を見越して仮の利用に供されているにすぎない土地については、納税義務の免除の対象とすべきでないことになるが、具体的な土地について、それが最終的な需要に供されているものであるが、将来の売買等を見越して仮の利用に供されているにすぎないものであるかの認定は、相当に困難を伴うものであるから、その具体的運用における不公平を避けるため、法は、前記第二の一3、4記載のとおり、外形的、客観的な基準を導入し、社会通念上相当程度の利用がされていることが明確である土地のみを免除の対象とすることとしたものである。
したがって、当該土地が法六〇三条の二第一項二号の免除対象土地に該当するか否かは、同条七項、法五八六条四項の規定に従い、基準日現在における当該土地に係る事実(現況)により客観的に判断すべきものであるが、基準日の前後における事実であっても、それが基準日現在の事実(現況)を推認させる補助的な事実であれば、その限度でこれをしん酌することができるし、また、しん酌することを必要とするものである。とりわけ、当該特定施設が法施行令五四条の四七第二項二号の「その利用が相当の期間にわたると認められること」という基準に適合するものであるかどうかは、基準日現在の事実(現況)のみではこれを判断することは困難であるから、この場合には、所有者の利用意思、当該特定施設の具体的な利用状況等基準日の前後における事実を総合的に考慮して認定しなければならないというべきである(最高裁昭和六〇年(行ツ)第一七九号昭和六三年四月二一日第一小法廷判決・判例時報一二八〇号六七頁参照)。
そして、この理は、ミニ保有税についても同様に妥当するものである(法附則三一条の五第二項参照)。
(二) 本件においては、本件駐車場が右の「その利用が相当の期間にわたると認められること」という恒久的な利用に供される特定施設に係る基準に適合するものであったか否かが争われているので、この点について以下検討する。
(1) 前記第二の二の前提となる事実に《証拠略》を併せれば、以下の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。
ア 原告は、本件土地を、リキ興産に対する債権(元本三九億円余り)を保全するために譲渡担保として取得したものであり、本件譲渡担保権設定契約においては、平成六年四月一九日まで本件譲渡担保権の実行を猶予するものとされていた。
譲渡担保設定後、リキ興産は本件土地の売却により債務を返済することを検討していたが、不動産市況の長期低迷のため、本件土地を早期に売却する見通しが立たず、そのため、原告とリキ興産との話し合いにより、取りあえず、原告が本件土地を使用収益してリキ興産に対する債権の一部を回収することになり、原告とリキ興産は、平成六年一月一〇日、原告が本件土地を同日以降使用収益し、その収益金をリキ興産が原告に対して負担する債務の弁済に充当することを合意した。
イ 原告は、本件土地の利用方法等について検討をしたが、パチンコ店等を経営するのは繁華性が劣るため適切でなく、分譲若しくは賃貸マンションの建築は投資額が大きくその回収に長期間を要することから現実的でないということになり、投下資本約六〇〇万円で年間収入七〇〇万円程度と一年以内で投下資本の回収が見込める駐車場として利用するのが妥当であるとの結論に達した。そこで、原告は、平成六年一月一二日、中山不動産との間で、本件土地を本件駐車場として利用するための管理委託契約を締結した。その際、原告は、中山不動産に対し、中山不動産が集金した賃料合計の五パーセント及び消費税を支払うこととされ、契約期間は同年二月二一日から平成七年二月二〇日までの一年間とされたが、期間満了の一か月前までに、原告又は中山不動産からの書面による申出がない場合には、右契約は、同一条件にて、さらに一年間更新されるものとされた。そして、平成六年一月一三日から同年二月二一日まで本件土地を駐車場として整備する工事が行われた。なお、右工事は、リキ興産が発注したことになっており、その代金は原告が立替払という形で支払をしている。
ウ 原告は、中山不動産を仲介業者として、平成六年二月及び三月に、本件駐車場のうち二〇台分について、契約期間を一年として第三者と賃貸借契約を締結した。その後、同年一〇月二七日、サンワ製版株式会社との間で、本件駐車場のうち残りの一台分について、他の二〇台分と同様の賃貸借契約を締結した。
エ 右ウの各賃貸借契約(以下「本件各賃貸借契約」という。)においては、賃料は月額二万八〇〇〇円ないし三万円とされ、期間満了の際、合意の下契約を更新することができるとされたが、貸主(原告)又は借主は一か月以前に予告して契約を解除することができるとされ(本件各賃貸借契約の契約書一二条)、さらに、特約条項として、本件駐車場は、原告が事業契約を有する目的にて取得したもので、その計画が実行された場合、借主はすみやかに明渡しをするものとする旨合意された。
オ 本件土地は、平成七年一月一日現在、本件駐車場として利用されていた。本件駐車場は、ブロック塀等により周囲を囲まれ、また、アスファルト舗装されており、白線で駐車位置が指定されており、二一台が駐車できるようになっていた。
カ 平成七年一月一日現在、リキ興産の原告に対する債務(元本三九億円余り)はそのまま残っており、本件駐車場の賃料収入だけでは到底債権回収はおぼつかない状態であったが、原告において本件土地に分譲ないし賃貸のマンションを建築して債権回収を図るだけの資金余力は有しておらず、右債権を回収する目処は立っていなかった。また、地価は年を経るごとに下落する一方であり、原告において本件土地を譲渡担保として確保していても、値上がりは見込めない状態であった。
キ 近鉄不動産は、平成七年一月一二日、リキ興産に対し、本件土地の購入を申し込んだ。これを受けて、リキ興産は、近鉄不動産からの同日付け不動産買付証明を同月一八日に譲渡担保権者である原告に対して交付した。
ク 原告は、平成七年一月一八日に右買付証明を受けた時点で、もしかしたら本件土地が売却されることになるかもしれないと考え、中山不動産に対し、本件各賃貸借契約の更新を拒絶することになるかもしれない旨を電話で通知した。
ケ 原告は、平成七年一月一八日に本件土地の買付証明を受けてから一〇日程度で本件土地を売却するための決裁を済ませ、本件土地を近鉄不動産に対し売却することを決定した。本件土地が現実に近鉄不動産に対し売却されたのは同年三月二二日であるが、これは、その間に本件土地の測量等をしていたためである。
コ 右売却代金は一〇億一〇〇〇万円であったが、そのうち、諸費用を差し引いた九億七八〇九万一〇〇〇円については、すべてリキ興産の原告に対する残債務の弁済に充当され、リキ興産に対する清算金の支払はなく、その時点でリキ興産の残債務は二九億六四三七万七〇〇〇円となった。
(2) 右事実に基づき検討するに、原告は、リキ興産に対する債権を担保するため本件土地を譲渡担保としてその所有権の移転を受けていたのであるが、平成七年一月一日の時点では、譲渡担保権の実行の猶予期限(平成六年四月一九日)は既に経過しており、債権額は元本だけで三九億円余りにのぼっていたこと、本件駐車場としての賃料収入は、毎月六〇万円程度にすぎず、原告において、リキ興産に対する多額の債権を回収する現実的な目処は立っていなかったこと、当時、地価は下落傾向にあり、土地の値上がりを期待できる状況にはなく、近鉄不動産への本件土地の売却代金も一〇億一〇〇〇万円に止まっていること等からすれば、原告としては、債権回収のためには近い将来本件土地を売却するしか方法がなかったものと推認されるのであって、原告が本件土地の買付証明を受けてから一〇日ほどで売却を決定していることをも考慮すれば、平成七年一月一日当時、原告が本件土地を恒久的に駐車場と利用する意思を有していたものとは考えにくく、原告が本件土地を本件駐車場として利用していたのは、あくまでも本件土地を好条件で買い受ける者が現れるまでの暫定的なものであったと認めるのが相当である。
右のとおりであるから、平成七年一月一日において、本件駐車場が、法施行令五四条の四七第二項二号に定める「その利用が相当の期間にわたると認められること」という基準に適合するものとは認められないというべきである。
2 そうすると、本件土地は、他の要件について検討するまでもなく、法六〇三条の二第一項の規定による納税義務の免除の対象とはならないというべきであるから、本件ミニ保有税について納税義務の免除の認定をしなかった本件否認処分に違法はなく、したがって、本件否認処分の取消しを求める原告の請求は理由がないというべきである。
三 結論
以上の次第で、原告の本件各請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法七条、民訴法六一条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 青柳 馨 裁判官 増田 稔 裁判官 篠田賢治)